墨摺り木版画の基本


墨摺り版画は、木版画の技法として最も単純で素朴な技法ですが、表現手段として限りない可能性を持っています。
このページでは、墨摺りに拠る黒白版画の制作方法を順を追って説明して行きます。
木版画は、諸説ありますが、およそ千年程の昔に中国から仏教美術と其の経典の印刷物として伝わって来ました。
爾来、墨摺りに拠るモノクロームの版画は、現代でも多くの作家や愛好家に親しまれています。
表現の方法も多様化して油性の黒インクと大型のプレス機を用いた作品や銅版画、シルクスクリーン等の他の版画手段
と併用した作品も少なくありません。
ここでは、最も歴史が古く、広く一般に普及した技法である凸版形式の技法についてご紹介して行きたいと思います。

下絵制作

木版画の第一歩は、下絵制作から始まります。完成度の高い版画は、充分に主題や構想を練られた下絵から生まれます。
反対にこの時点で手を抜くと彫りや摺刷時に躓く事が多く、折角の作品が、失敗作に成りかねません。
ただ、下絵制作の重要性を主張する考え方は、筆者の信条であって決して絶対的な意見では有りません。下絵を作らずに
版木に直接、下絵を描き一気呵成に彫り上げる世界的に著名な作家もいました。
どの様な技法を用いても自由なのですから初学者の方は、型にはまらず、自分の個性に合った技法を見つけて下さい。
このページでご紹介する技法も、一つの参考例として学習して戴ければ幸いです。
それでは、下絵制作に入りましょう 


1.ケント紙か画用紙、それに鉛筆(BかHB)、消しゴム、カッターナイフ、三角定規、直定規等を用意します。

2.ここでは、作品の画像サイズを天地260mm、左右170mmと決めてみました。雑誌の大きさに近く、初心者の方にも
制作し易いサイズと思います。

3.下絵用紙のほぼ中央に定規を使って画像枠を描き入れます。次にその枠の周囲に30mm前後の余裕を取って
「見当」を作成します。「見当」とは、摺刷の際に版画用紙を一定の位置に固定させる方法です。
多色摺りには、絶対必要な方法ですが、墨摺り版画の場合は「見当」無しでも摺刷する事は、出来ます。
但し、墨摺りで二度摺り、三度摺りを行う場合は、やはり「見当」が、無くては不可能です。

4.今回の制作では、墨摺り版画ですが「見当」を作成して摺刷を行います。
まず、画像天地の方向に上下に30mm、左右は其々25mmの空白を開けて「見当」を作成します。
画像枠と「見当」の間が、狭すぎると円滑な摺刷作業が、難しくなるので注意が必要です。また、「見当」の線を
水平垂直の方向に延長させて行くと「摺刷用紙」の基本サイズが、決定します。

5.「見当」には、「カギ見当」と「引き付け見当」の二種類が、あります。初学者にとって「引き付け見当」をどの位置に
決定するか悩みの種と、なります。最終的には、作家自身の判断に委ねられますが、一般的には、摺刷用紙(長い寸法の側)
の五分の一、あるいは三分の一の位置に作られる場合が、多い様です。
筆者は、自身の経験から「引き付け見当」を四分の一の位置に設定しています。また、「見当」の大きさは、10mmから15mm
以内にすると作業が、し易いでしょう。見当専用の版木刀は、15mmの大きさに成っています。

6.下絵用紙中央に画像枠と見当の描き入れが、終了したら、いよいよ画像枠に下絵を描いて行きます。
下絵を描く時、最も大切な留意点として描かれた下絵が、版木に無理なく彫る事が可能であるか、更に彫り上げた
版木に摺刷作業が、円滑に行えるかの二点が、上げられます。ですから、絵画作品を制作するつもりで自由にデッサンを
描く事は、出来ません。「描いて、彫って、摺る」を何時も念頭に置いて描写を進めて下さい。
下絵には、様式化や抽象化が、必然的に求められます。風景や人物、静物等の題材は、自由ですが、あくまでも
木版画の為の下絵制作である事を十分意識して下さい。そして、鉛筆と消しゴムを使って何度でも描いたり消したりを
繰り返し、納得が行くまで下絵としての完成度の高さを追求する事が、大切です。
以下に、画像を表示しておきますので、参考にして下さい。

 (ア)下絵枠組み (イ)完成下絵 

(ア)下絵枠組み
下絵の基本となる図形を上に表示しました。
ケント紙に下絵を描く場合、左図のように摺刷紙の基本となる大きさよりも一回り大きなサイズの用紙を用意して下さい。
画像の枠内に下絵を描いていると絵の構図を移動させる必要が、生じる場合があります
(例 画面の天の部分を25mm短くして
地の部分を25mm延長させる等)この様な場合、絵を描く枠組みの周囲に余白を広く取っていると仕事を進め易くします。
そして、トレース作業に入る時は、必ず画面右側の「カギ見当」と「引き付け見当」も一緒に転写する事を忘れないで下さい。

(イ)完成下絵
下絵を描く時は、必ず、その後の「彫りと摺り」を強く意識して下さい。
絵画作品としてどれほど素晴らしい下絵を描いても、それを基にして無理の無い彫りや摺りが、出来なければ意味が、
有りません。木版画制作の為の下絵である事を確り留意して制作に取り掛かって下さい。



版下製作と転写

下絵が完成したら次は、版下製作に進みます。
版下とは、下絵を版木に転写する際に使う用紙のことです。伝統的な木版画技法では、薄い和紙に墨で描かれた下書きを
裏返しに版木に貼り付けてから、彫りの作業を行いますが、現在では、あまり用いられない方法です。ここでは、最も一般的な
方法として製図用具であるトレーシングペーパー、トレーシングフィルムを使用する技法を紹介します。


1.
まず、トレーシング・ペーパー或いはフィルムを下絵の画像サイズより一回り大きなサイズにカットして置きます。二つの見当も
一緒にトレースしますから少しゆとりの有る大きさにしておきます。

2.
トレースに使用する鉛筆は、T・ペーパーでH〜2H、フィルムなら4H〜6H位を用意して置きます。
次に、転写の終わった用紙(版下用紙になる)を使って版木上にトレースする際は、最初の転写時よりも一段階硬めの鉛筆
を使うと、良いと思います。ちなみに筆者は、下絵をトレーシングフィルムで転写の時に6H,それを版木に写す時に7Hを
使用しています。初学の方は、いろいろな硬度の鉛筆を使って自分に最適な鉛筆を見つけて下さい。

3.
それでは、ここから実技に入ります。まず、下絵の上にトレーシングペーパー乃至はフィルムを掛けて四隅をセロテープで止めておきます。
それから、鉛筆で正確に下絵を写して行きます。その際、作業を行う側の手の下にきれいな紙を当てておきます。転写用紙を
手の脂や汚れから保護する為の措置です。紙でなくてもプラスチックの板や定規でも構いません。

4.
下絵の転写が、終了した時点でトレーシングペーパー(フィルム)は、版下用紙となります。版下用紙は、裏返しにして板木への
転写を行います。但し、この作業を行う前に版木を少し調整して置く必要が、有ります。
ここで版木として使用するシナべニアは、材質としては少し柔らかいので細密な彫りの場合にはあまり適しません。
そこで、版木を硬質にして彫り易くする為に木工用のボンドを使います。ボンドは、水で薄めて使用します。
薄める比率は、作家の感覚に拠って多少異なりますが、ボンドの量に対して約3倍位の水で薄める事が、多い様です。
筆者の場合は、水の量を5倍〜7倍位にして使用します。(牛乳を少量の水で薄めた様な感じです。)
木工ボンドを適量の水で良くかき混ぜた後、版木に一度だけ塗布します。その後、直射日光を避けた風通しの良い場所で
乾燥させます。(筆者は、版木の表面にボンド水を塗った後、裏面にも、真水を同程度塗って置きます。乾燥時に版木を
反らせない予防的な措置です………。)
版木が、完全に乾いた後、水彩絵の具の緑か青、乃至はグレー色で版木全体に薄めの色合いで着色して行きます。
こうしておくと彫りに入った時、浚う場所(凹部)と残す場所(凸部)に明度と色彩による対比効果が、生じて彫りの作業が、
スムーズに行えます。つまり、浚った場所は、版木の地の色が、出て明るくなり残った場所は、着色部分となります。
このような処置をしておくと、残すべき大切な形の部分を削りとってしまう、うっかりミスを防ぐ事が出来ます。
板木への着色と乾燥が、終了してもそのままでは、表面が、ザラザラして使用出来ません。そこで、目の細かい紙やすりで
表面を滑らかにして行きます。紙ヤスリは、文庫本くらいの大きさの箱か、同程度の大きさの版木切り残しを巻きつけると、
使い易くなります。是非、試してみて下さい。
参考までに、筆者が、使用している紙ヤスリを紹介して置きます。<ASAHI TONBO社のG-240>
ホームセンター等で購入できます。

5.
版木への加工が、終了したらトレース(転写)作業に入ります。版下用紙(下絵を転写したトレーシングペーパー、フィルム)を裏返し
の状態にして版木に固定させます。その際、版木と転写用紙の間に赤色のカーボン紙を挟み入れます。
カーボン紙は、黒色でも構いませんが、転写の際に鉛筆の黒の線と重なって判別が、少し難しくなります。
赤色か青色のカーボン紙の使用をお勧めします。

6.
鉛筆は、この項目の(2)で述べた様に版下紙を版木に転写する際は、硬めの鉛筆を使います。
三菱ハイユニなら6H〜7H、ステッドラー鉛筆なら5H位が、良いでしょう。転写の際は、少し強めに線を引き、慎重さと正確さ
を要します。それと同時に、絵としての自然な柔軟さを失わないことが、大切です。また、転写を行う版下用紙が、裏返しに
成っているか、必ず確認して下さい。
初心者の方は、版下紙を裏返してトレースすることに奇異の念を持たれるかも知れません。けれど、下絵を転写した版下紙を
そのまま版木に写して彫りと摺刷を行った場合、出来あがった作品は、下絵とは、左右逆転したものに成ってしまいます。
敢えてその様な意図で制作する場合は別として、版下紙は、裏返しにしてトレースする事が原則です。

(ウ)下絵の転写   (エ)版木とカーボン紙

(ウ)下絵の転写
転写が、終了したトレーシングフィルム(版下)です。次の工程で版木にトレースする際は、必ず、版下紙を裏返しにします。
もし、裏返しをしないでトレースをして其のまま作業を続けて行くと左右が逆転した図柄の作品に成ってしまいます。
十分気を付けて下さい。



(エ)版木とカーボン紙
薄く着色した版木の上に、転写に使用するカーボン紙が、置かれています。筆者は、ゼネラル社の「ゼネラル・ゾル・カーボン紙」
を愛用しています。他社の物よりインクの乗りが、良い様に感じています。

写真では判別が難しいのですが、版下紙が、裏返しに成っている事を必ず確認して下さい。「見当」が、ここでは左側にあります。
版下紙を版木に固定する時は、天地左右の端を画鋲で止めて置きます。その際、画鋲の当たる部分の版下紙に小さくカットした
接着テープを張り付けて置くと画鋲が、更にしっかりと版下紙に固定されます。


彫りの技法

板木への転写が終了したら、いよいよ彫りの工程へ進みます。ここでは、版木刀を用いて形を切り出して行く伝統的な方法を
取ります。別の方法として細めの丸刀(コマスキ)や三角刀で自由に絵を描く様に形を切り出して行く方法も有ります。
ただ、この場合は、版木刀を使う場合に較べると下絵に忠実な彫りは、あまり期待できません。転写された下絵は、あくまでも
基本的な拠り所と考えて、彫刻刀でダイナミックに彫って行く味わいを前面に出したい時に最適な技法です。


1.版木刀(キリダシ)の使い方を簡単に説明します。
版木刀は、他の彫刻刀とは違い、ナイフを逆手にして握る様にします。其の時、柄の頭頂部の丸みを帯びた部分に親指を
当てます。そして、直線や曲線を引く時に、その親指で力の入れ具合や左右への方向をコントロールします。その為に、
版木刀の頭部は、球状になっていて親指で操作し易い工夫が、されています。
長い柄の版木刀の場合は、そのままでは、長すぎて使い難いので、柄の上部をカットして置くと使い易くなります。
カットの位置の目安として逆手に握った状態で柄の長さに少し余裕がある位が、良いでしょう。
また、彫刻刀の刃には、表刃と裏刃があります。版木刀の他、平刀や丸刀等も(特別な目的がある場合は別にして)
表刃を使って版木を彫って行きます。ですから使用時は、版木刀を逆手に握った時に裏刃が手前に、表刃が裏側に
ある状態にして置きます。<少々ややこしい説明ですが………>

2.それでは、版木上に転写された図柄の切り出し作業に入ります。
まず、版木刀を逆手に握って描かれている図柄の輪郭線に刃を当ててなぞって行きます。力が、入り過ぎると曲線部を
滑らかに切り出す事が出来ません。普段、鉛筆で直線や曲線を自然に描くような気持ちが、大切です。
スムーズに切り回し作業を行う為に版木を天地逆さまにしたりグルグルと回転させても構いません。自分が、一番作業の
し易い形で、仕事を進めて下さい。
また、この時に図柄の輪郭線が、残る様に切り出して下さい。墨摺りの場合は、必ずしもそうする必要は、無いのですが、
多色摺りの際は、その事に拠って其々の形の輪郭線が、重なり合い隙間の無い緊密な空間を作ります。
もし、図柄の輪郭線までも切り落としてしまうと摺刷時に形と形の間に隙間が、生じてしまう恐れがありますので注意が、
必要です。筆者は、摺刷後の修正の場合も考えて墨摺りの場合でも輪郭線は、残して切り出します。

3.輪郭線の切り回しを終了したら次に、形の輪郭線を軽く掘り起こし、やや浅めの凸版状の形を作ります。
一番最初にこの作業を行う事で凸版として残す部分と周囲の不必要な部分が、判別しやすくなり浚いの作業が、円滑に
進められます。切り回しの後、輪郭線を掘り起こすには、平刀(アイスキ)を使います。版木刀で入れた切り目の部分に
外側斜め上から突き刺す様に刃を入れます。すると、ザクッと云う手応えがあり、不要部分が、簡単に取り除けます。
版木刀で全ての形の輪郭線を切り回した後は、この作業を行って下さい。

4.次は、丸刀(コマスキ)を使った浚いの作業に入ります。
版木の大きさにも拠りますが、10mm〜15mm位の大きさの丸刀で不要な部分(凹版部)の最も広い面から浚いの作業を始めます。
ここでは、墨摺りなので多色摺りよりも深めに彫る様にします。浅めに彫る場合でも2ミリ前後の深さは、欲しい処です。
彫りが浅いと墨が、版画紙に付着して汚れる事が、有りますが、それを意図的にひとつの効果として表現する事もあります。
一番広い面の浚いが、終了したら次は、中程度の刃幅(6〜10mm)の丸刀で残った不要部分を彫って行きます。この様にして
残っている不要部分に応じて徐々に丸刀も刃幅の小さな物に代えて彫り進めます。
最後に残る不要部分(凸版部)の輪郭線周囲は、1ミリか1.5ミリ幅の丸刀で慎重に彫り進めます。
浚いの作業で大切な点を最後に一つ上げておきます。
凸版部の周囲を浚うとき、其の凸版部と浚う場所(凹版部)を緩やかな山の斜面の形に整えて置くことです。
摺刷される画の部分(凸版部)は、バレンを使う人間の強い力で圧力が、加えられます。もし、浚いの悪い状態で
凸版部の底辺が、細く脆い状態でしたら、摺刷時に破損してしまうでしょう。
凸版部を外部からの強い圧力による損傷や摩耗から守るためには、土台(凸版部)を末広がりの山の斜面の形にしておく必要が、
あるのです。浚いのときは、この事を念頭に作業を進めて下さい。

5.丸刀に拠る浚いの作業が、終了しても凹版部は、でこぼこした状態のままです。そこで、次は、平刀(アイスキ)を用いて浚った後の
凹版部を起伏の無い滑らかな面に仕上げて行きます。丸刀の浚いと同じ要領で広い面には、大きな平刀、狭い面には、小さな
平刀と使い分けて行きます。この処理に拠って後で摺刷する際に墨の付着による汚れから版画紙を守る事が出来ます。また、
凹版部が、滑らかな面に成っていると摺刷時に使用する刷毛やブラシの摩耗度が、低く抑えられます。
但し、丁寧な彫りで施された版木が、最終目的ではありませんから平刀に拠る仕上げ作業は、ほどほどの処で切り上げて下さい。

6.画面全体への彫りの工程が、終了したら最後に「カギ見当」と「引き付け見当」の二つの「見当」を作ります。
見当作成の為の刀として、専用の見当鑿(のみ)か、大きめの平刀を使います。初学の内は、15ミリ幅程度の大きな平刀が、
あれば十分でしょう。
まず、「見当」の線の内側か外側に見当ノミ(又は平刀)の刃を垂直に強い力で入れて行きます。この時に大切な点が、
二つあります。一つは、刃を入れる際の「見当」の線が、内側か外側を決定したら二つの見当にそのルールを確実に守って下さい。
「カギ見当」を線の内側に刃を入れて、「引き付け見当」が、外側では正確な「見当」は、作れません。多色摺りの際に所謂
「見当ずれ」を引き起こす要因の一つに成ります。墨摺りの場合でも二度摺り、三度摺りの場合もあるので見当を彫る時は
刃を入れる場所が、線の「内側」か、あるいは「外側」なのか一度決定したのなら必ず統一して下さい。
二つ目は、使用する刀(見当ノミ、平刀)の使い方です。
通常は、表刃を使用しますが、ここでは、「裏刃」を使って「見当」の線に刃を入れます。もし、表刃で行うと微妙ですが、傾斜角度
が生じて見当ずれを起こす可能性が、あります。「見当」を作る時は、最初に裏刃を当てる事に留意して下さい。
「見当」の線に刃を入れたら次は、同じ刀の表刃を使用して「見当」の形を彫り起こして行きます。具体的な方法は、この項目
の3番と表示写真を参考にして下さい。なお、彫り出す見当の深さは、使用する版画紙の厚みに相当します。見当を余り深く
彫ると摺刷時に版画紙が、歪んで見当ずれを起こします。「見当」の深さは、使用する版画紙の厚さ分が、鉄則です。

 
 
(オ)版木刀使い方  (カ)丸刀浚い       (キ)見当を彫る

(オ)版木刀の使い方
写真は、版木刀に拠る「切り回し」と、その後の平刀の使い方を変則的に表示したものです。
白い紙面の(A)は、絵柄として残す凸面の部分、(B)は、浚ってしまう不要の凹面部と、なります。
版木刀は、右手に逆手にした状態で握ります。そのとき、親指を柄の頭部(球状部)に当てて左右の方向をコントロールします。
写真は、図形A(凸版部)の輪郭線を切り回している処です。版木刀の裏刃が、外に向いている点に注意して下さい。
図形の輪郭線は、版木刀の表刃で切り回すのが基本です。写真上部には、表刃を向けた状態の版木刀が、置かれています。
表刃と裏刃の違いを確り確認して下さい。表刃は、傾斜角度がありますが、裏刃側は、つるんとして、真っ平らの形状です。
砥ぎの場合でも表刃を中心にしてしっかり砥ぎますが、裏刃は、砥ぎかすを落とす為に軽く数回砥ぐ程度です。
切り回しが終了したら、つぎは、外側から平刀で輪郭線に向けて刃を入れて行きます。切り回した処に接触すると「ブツン」と、手応え
が有り、不要部分が、自然に切り離されます。平刀も表刃側を使うので、写真でも裏刃が、外を向いています。
表示写真では、説明の為に片手で版木刀や平刀を使う状態になっていますが、実際は、この様な使い方は、危険なので絶対に
しません。一枚の写真で説明する為の演出です。

実際に使用する時は、必ず、空いている方の手を使用する側の手に添えて刀の動きを円滑に行えるよう補助してください。
また、そうする事に拠って怪我を未然に防ぐ事が出来ます。
彫刻刀を使う時は、両手を常に刃の後ろに置く事が、安全上の鉄則です。

(カ)丸刀浚い
写真は、丸刀で不要部分を浚っている処です。ただ、不要なところだからと云って全部を浚う必要は、ありません。
絵柄(凸版部分)の周囲4センチ前後位まで浚って置けば良いでしょう。
なお、墨摺り版は、多色版よりもやや深めに彫って置く必要が、あります。墨が、余計な場所に付着しない様にする為です。
ちなみに筆者は、約2.4mmの深さを標準として彫っています。シナ合板なら2層分の厚さになります。これ位、深く掘れば
汚れの心配は、まずありません。また、意図的に浅めに彫る事で墨の付着を一つの効果として考える事もできます。
尚、残った不要部分の縁は、鋭角のまま残るので平刀で削り、丸みを出して置きます。この作業をしないで摺刷を行うと
バレンの圧力で版画紙に鋭角部分のラインが、くっきりと、写ってしまうので注意して下さい。

(キ)見当を彫る
画像は、見当ノミで鍵見当を彫っている処です。見当の線(内側か外側)に見当ノミか15mm幅の平刀で、強い力で刃を
入れて行きます。この時大切な事は、刃を垂直に立てて「裏刃」を見当線に当てる事です。写真(キ)左下には、参考までに
「表刃」を見せた見当ノミが、写っていますのでその違いを確認して下さい。
見当線上に刃を入れたら用紙を当てる部分(右側下の角)を見当ノミか平刀で慎重に削ります。その際は、当然表刃側を
使います。削る際の深さは、摺刷する和紙の厚さ分相当なので深くなり過ぎない様気を付けて下さい。
画像の見当に付けた矢印は、見当を彫る際の刃の方向を示したものです。見当線に向かって刃を滑らす様に削って行きます。
刃の先が、見当線に接触すると既に切れ込みが、入っているので不要部分が、自然に剥離します。
引き付け見当では、一方向、鍵見当では、二方向を上述した方法で彫って行きます。(画像の矢印を参照して下さい。)


摺刷

版木の彫りの作業が、終了したら、いよいよ最後の摺りに入ります。但し、摺りを円滑に行う為には幾つかの用具を準備する
必要が、あります。
このページでは、用紙を湿らせて摺刷する伝統的な技法を用いるので、その為の用具として「黄ボール紙」や「噴霧器」等を
必要としますが、以下に順を追って技法と共に用具の説明を行います。


1.和紙を湿らせる方法は、幾通りかありますが、ここでは、筆者が、用いている方法を紹介します。湿らせ方の基本を習得
 した後は、自分なりの技法をどんどん開拓して行って下さい。
まず、「黄ボール紙」を用意して下さい。このボール紙は、両面が、黄土色で吸水性のある雑紙です。安価ですが、一般の
文具店では、入手し難いようです。筆者は、画材店で一番大きなサイズ(B1)を纏めて取り寄せ、必要な大きさにカットして使用
しています。
ボール紙の大きさは、摺刷する版画紙より一回り大きな、余裕の有る位のものが、最適です。
その他に必要な道具として幅広の刷毛(水刷毛)や水を張る為の容気、大きめのビニール、新聞紙等を用意して置きます。

2.まず、床に大きなビニール(厚め)を2枚敷きます。これは、湿らせた版画紙とボール紙を乾燥から守る為のものです。
次に、上のビニールを左側から右へ半分ほど捲ります。一枚だけになった下のビニール左半分の位置にボール紙を置いて
表面だけに刷毛か噴霧器で全体を適度に濡らして行きます。ただし、裏側まで水が、浸み込むのは禁物です。注意して下さい。
次は、版画紙より幾分か大きめに切った新聞紙を1,2枚濡れた面に置きます。その上に版画紙を2枚置いて更に新聞紙を
1,2枚置きます。その際に注意が必要なのは、版画紙の裏側を濡れているボール紙側に当てる事です。
版画紙の表側、つまり、摺刷面に直接水分が触れる事は、色が滲んだり、摺刷面が脆くなる危険性があるので避けるべきです。
版画紙(和紙)は、表が、滑らかで裏側は、目が,粗くなっているので判別し易いと思います。
また、用紙とボール紙の間に新聞紙を挟むのは、版画紙の礬砂(ドウサ)が、ボール紙に移らない様にする為の予防措置
なのです。直に用紙をボール紙に当てた状態で使用していると、何時の間にかボール紙に版画紙の礬砂が、浸み込んで
水分を弾いてしまい使い難くなってしまいます。何回か使用したらボール紙を廃棄するなら直に使用しても構いませんが、
長く使いたいのなら新聞紙の使用をお勧めします。新聞紙以外でも、わら半紙等を使っても良いと思います。

3.一枚のボール紙に新聞紙と二枚の版画紙を置いたなら、更にその上にボール紙を置き、必要とする枚数分の作業を
繰り返します。一度に摺る枚数は、作家に拠って違いますが、筆者は、4〜6枚位です。試し刷りが目的なら2,3枚で十分です。
最後のボール紙に水を引いたなら、版画紙の挟まったボール紙を両手で掴み、勢いを付けてひっくり返します。
この動作をゆっくり行うと中の版画紙が、外に飛び出してしまう危険があるので注意が、必要です。気合いを入れて一息で
ひっくり返す気持ちで行うと良いでしょう。ボール紙を裏返すのは、中の版画紙が、裏側から自然な形でボール紙からの
水分を吸収する為です。
上の作業が、一通り終了したら捲り上げて置いた上側のビニールを元に戻します。
ビニールの中にボール紙が、ボール紙の中に新聞紙が、新聞紙の中に版画紙が、サンドイッチの状態で挟み込まれました。
最後にビニールの上に適度な大きさの重しを置いて1〜2時間位版画紙が、十分湿るまで待ちます。
重しは、ボール紙と同程度の大きさの古い板木やべニア板等の上に書籍等を何箇所か置いておきます。
余り、重くなり過ぎない様に注意して下さい。尚、一度目の作業では、ボール紙に水分を取られて版画紙が、充分湿らない
場合も有ります。その際は、上記の作業をもう一度行って下さい。

4.版画用紙を湿らせている間に摺りの準備をしましょう。
筆者は、立った状態で摺刷を行いますので机の上を片付けて摺りの用具を配置します。立って行う摺刷作業は、座って
摺るよりも自由に力強く動けると考えますが、疲労度の強い事が、やや難点です。体力に余り自信のない方は座って行う
摺刷作業の方が、良いでしょう。
それでは、机の中央に版木を置いて下さい。版木の下には、滑り止めのゴムシートか、濡らしたタオル等を敷いて置きます。
こうすれば、摺る時に版木が、動いてしまう心配は有りません。
机の周囲には、摺刷作業が、円滑に行える様にバレン等の用具を配置します。摺刷用具の配置で一番大切な事は、
作業の邪魔に成らずに必要な用具が、すぐに手に取れる事です。表示してある写真を参考にして下さい。
筆者は、左利きなので版木の左側にバレンとツバキ油の浸み込んだボロ布を置きます。バレンは、常にボロ布の上に
乗せて置きます。摺刷時には、ボロ布に時々椿油を1.2滴補充して下さい。
一枚摺り終えたらバレンをボロ布にゴシゴシと擦りつけ、バレン表面の竹皮に油分を絶やさない様にします。
これは、版画紙に含まれた水分から竹皮を保護すると同時に摺刷時の動きを良くする為のものです。但し、油分を多くし過ぎ
ない様に注意して下さい。版画紙に油が、浸み込んでしまっては、折角の作品が、台無しになってしまいます。
こうしたトラブルを防ぐため筆者は、薄口のトレーシングペーパーか、クッキングペーパーを版画紙に当てて摺刷を行っています。

5.摺刷作業に入る前に使用する刷毛、ブラシの毛先を五分位水に付けて置き、使う時は良く振って水気を切って置きます。
乾いた状態でいきなり使用すると破損する恐れがあります。道具を使う時は、其の性質を良く理解して、優しく丁寧に
扱う事が、長持ちの秘訣です。
また、摺刷する版木の裏側には、水刷毛等で水を引いて濡らします。版木の性質として片面だけに水分が、偏ると板が、
反り返って来ます。それを防ぐ為に事前に裏側に水分を与えて置くのです。

6.次は、版木の摺刷面全体にも少し湿り気を与えます。顔料や墨を版木に馴染ませる為の下準備です。
多くの作家や摺り師は、刷毛や日本手拭を使って版木表面を濡らしますが、筆者は、自身の経験から少し違う方法を
取ります。
摺刷用に準備した墨(墨汁や顔料、水彩絵の具等)を別の小皿に少量分けて置き水で少し薄めて置きます。
この薄墨を使って最初に版木全体を刷毛等で万遍無く塗り込みます。作業が、終わったらほぼ乾くまで待ち、もう一度
同じ作業を繰り返します。少し面倒臭いですが、ここまで来ると版木に水分が、自然に馴染んで来るので摺刷に適した状態に
成ります。

7.ここで、本摺りに入ります。摺刷用の墨を筆かハコビを使って版木全体に何箇所かに分ける様にして置きます。
次に手早く刷毛、ブラシ等で全体を塗り込んで行きます。それが終わったら版木の木目に沿って刷毛を動かします。
掃除をする時に箒を使う様な気持で刷毛、ブラシを使うのがコツです。墨顔料が、溜まっている箇所は、箒で掃き出す様にします。
この作業では、刷毛ブラシの運動が、必ず板目に沿っている事が、大切です。
次に今度は、版木に対して直角に刷毛ブラシを使います。手前から向こう側へと少し優しい感じでブラシを運び墨の溜り部分が、
出ない様にします。最後に刷毛ブラシを板目に対し直角方向に使う事で、墨や顔料が版木にきれいに満遍なく定着します。
縦と横の二方向にブラシを使う事で余分な墨、顔料を完全に取り除きます。墨の量が多いと感じた時は、この作業をもう一度
繰り返して下さい。版木上の墨や顔料を整えて置けばツブシの効いたきれいな摺りが、期待できます。この技法は、「化粧刷毛」
あるいは「刷毛払い」と呼ばれています。
一般的に、この時に墨と薄めた糊を板木上で混ぜ合わす作業が行われますが、筆者は、糊を殆ど使いません。
墨や顔料を少しトロリとした濃いめの状態で使用しているので糊を使う必要性を殆ど感じないのです。但し、大型作品で広い
面積を「つぶし」で摺る時は、糊を使用する事もあります。その際は、市販のヤマト糊を2〜3倍位の水で薄め割り箸等で良く
かき混ぜてから使用します。しかし、墨、顔料の中に直接混ぜるのは禁物です。混ぜ合わせる時は、必ず版木上で、墨を置く時
に少量の糊を数箇所分布させて置き、ブラシ、刷毛で墨、顔料と混ぜる様にします。この時に糊が、多くなり過ぎない様に注意
して下さい。糊が多いときれいな摺りは、期待できません。

8.それでは、ビニールを左側から右方向へ半分ほど捲ります。次に湿らせてあるボール紙と新聞紙を左側へ裏返します。
すると、程良く湿った版画紙が、背中(裏側)を外に向けた状態で現れます。
この形のままでカギ見当側を右手に、引き付け見当側を左手で持ちます。摺りを行う時は、必ず版画紙が、裏側を作者側に
向けている事を確認して下さい。
もし、版画紙の表側が、摺刷者側に向けられた状態で摺ると摺刷面が、裏側になってしまい裏面特有の荒いザラザラした
画面になってしまいます。この問題を防ぐ手段として筆者は、事前に版画紙裏側のカギ見当の位置に赤か青の鉛筆でマル印
を入れて置きます。
尚、版画摺刷時の紙の持ち方は、写真で表示してありますので、それを参照して下さい。

9.版木上に用紙を乗せたら、二つの見当に用紙が正確に置かれているか確認の上、バレンを全体に軽く当てて行きます。
バレンの動かし方は、基本的に自由ですが最初は、版木に置かれた用紙を安定させる為に全体に大きく軽く動かします。
その後は、バレンの圧力を次第に強くしながら小刻みに動かし、満遍なく用紙全体を摺刷します。
墨摺り、多色摺り共に「ツブシ」効果を求めて確り摺刷する事を前提とします。ツブシ摺りは、上体からの力を肩口から
掌の付け根に集約させる気持ちでバレンに圧力をかけて行きます。
バレンの持ち方は、竹皮の根っこと先端を結び合わせている「握り」の部分を掌下部の肉厚な部分と親指を除く四本の指で
挟みつける様にして持ちます。一風変わった持ち方ですが、もし、「握り」部分に無理やり指を通すと竹皮が、次第に緩んできて
円滑な摺刷が、難しくなります。この持ち方は、あまりお勧めできません。

次に摺刷する上で考慮する点を幾つか述べて置きます。
バレンを持つ時、竹皮の繊維の方向は、必然的に横位置(水平)になります。バレンの摺刷運動は、この繊維の方向に沿って
摺るのが、基本です。ジグザグ式に動かしたり、グルグルと回転させて摺る動きにも繊維の方向に逆らわない気持ちが、大切です。
その結果として、紙を傷めずにデリケートできれいな摺りが、期待できます。
但し、繊維方向に逆らった上下の摺刷運動が、決して悪い訳では有りません。特に「ツブシ」摺りでは、上下の運動の方が、バレン
に大きな圧力が、掛って大変効果的です。その反面、圧力が、強すぎて用紙を捲る時に剥がれ等の損傷が生じたり、不必要な
部分に絵具が、付着する事も有ります。上下運動の摺りは、両刃の剣の側面が、あるので、その点に留意しながら圧力の掛け方、
バレンの動かし方を工夫してみて下さい。
筆者は、左利きですがバレンを使う時は、右手も使います。摺刷面の左側には、左手で、右側には、右手を使います。その方が、
上体からの力が、自然に手首まで伝わり良好な摺りが、得られると考えます。
バレンや彫刻刀の使い方は、利き腕だけでなく両手を駆使した方が大変効果的です。是非、練習してみて下さい。
最初は、戸惑うかも知れませんが、やがて、自然に両手で道具を扱える様になるでしょう。
又、摺りの作業を行っている最中は、折々にバレン本体の綱の部分と表面の竹皮を少しづつ回転させて、ずらして下さい。
片方の手でバレン全体を掴み、もう一方の手の指先を当て皮部分に当てて、少しづつ回転させて行きます。
摺刷の間は、これを何度も繰り返します。
本バレンと呼ばれるバレンの綱は、白竹の皮を細かく裂いて綯って作ります。出来上がった綱は、非常に硬質でゴツゴツとした
突起物で覆われ、この突起物は、「金平糖」と、呼ばれています。
バレンを包んだ竹皮を其のままの状態で摺っていると「金平糖」の圧力ですぐに竹皮に穴が、空いてしまいます。
それを防ぎ、竹皮を長持ちさせる為にもバレンの綱を絶えずグルグルと少しずつ回転させる必要があるのです。

一通り摺刷作業を行うと版木凸版部の絵の形が、裏側から用紙に薄く透けて見える様になります。
この状態が、摺りの終了の一つの目安になります。バレンを置いて両手で優しく慎重に用紙を捲って下さい。
これで、墨摺り木版画の出来上がりです。


 (ク)摺り準備 (ケ)ボール紙  (コ)湿った和紙  (サ)和紙持ち方  (シ)和紙置き方 

(ク)摺り準備
必要な道具が、すぐに手に取れるよう机の上やその周囲にバランス良く配置する事が、大切です。
版木は、中央手前、バレンは、利き腕の側に置いて下さい。版木の下には、滑り止めにゴムシートか濡れた布巾を敷いて
置きます。画像右横の薄い紙は、当て紙として使うトレーシングペーパーです。


(ケ)ボール紙
ボール紙を湿らせてから新聞紙と版画紙を置き、更にもう一枚新聞紙を版画紙の上に乗せて置きます。
この手順を必要な数だけ繰り返します。この時点で版画紙は、裏側が下、表側は、上にして置きます。
ボール紙を湿らせる方法として幅広の水刷毛か、ポンプ式噴霧器を使う方法がありますが、ここでは、この噴霧器を使用します。
この道具は、とても便利ですが、不必要な処まで飛沫が、飛ぶのが、難点です。それを防ぐ手段として周囲に古新聞の束等を置いて
います。尚、版画紙自体には、直接水を掛けたり、濡らしたりする事は禁物です。注意して下さい。

(コ)湿った和紙
写真は、ビニールを右方向に半分迄捲り上げ、次にボール紙を左側に引っ繰り返した状態です。中には、二枚の新聞紙に
挟まれた版画紙が、入っています。
ボール紙に挟む版画紙の数は、二枚位なら湿りの度合いに問題は、無いでしょう。それを同じ手順で摺刷に必要な枚数分だけ
加えて行きます。

(サ)和紙の持ち方
版画紙を持つ時は、先ず、右手人差し指と中指で用紙右端を挟み、次にカギ見当に当たる処を親指と薬指で挟みます。
左側も持ち方は、基本的に同じですが、引き付け見当のある底辺部を持つようにします。
二つの見当は、左右の親指で抑えて安定させます。ですから、両見当の位置付近には、必ず左右の親指が、ある様にします。

(シ)和紙置き方

版木の上に用紙を置く時は、まず、右の親指で用紙の右下角をカギ見当にピッタリと軽めに抑えます。
次に、左側の引き付け見当部分に用紙を引き付けて、こちらも左手親指で押さえます。
最後に用紙から手を瞬時に離しますが、この時、二つの見当には、親指を当てたままの状態にして置きます。
こうして置けば、用紙がズレを起こす事は無く、自然に版木の見当上に定着します。



(ス)バレン握り方  (セ)竹皮保護  (ソ)ばれん使い方  (タ)使い方U  (チ)墨摺り版画 

(ス)バレン握り方
バレンは、親指を除く四本の指先と掌下部で握りの部分をギュッと挟むように持ちます。決して握りの竹皮部分に四本の指を
差し込まないで下さい。また、親指は写真の様に外に出して置きます。
筆者は、バレンの作業が、し易いように「握り」の処に日本手拭の切れ端を巻き付けてタコ糸等で結んでいます。


(セ)竹皮保護
竹の皮で包まれたバレンを其のまま使っているとバレン綱のゴリゴリした「金平糖」の圧力で竹皮に穴が、空いてしまいます。
それを防ぐ為には、一枚摺る毎に画像の様にバレン竹皮部分を五本の指で固定させて、もう片方の親指と人差し指、中指の
三本でバレン本体をクルッと少しだけ廻します。
竹皮を包んだ当初は、きつくて簡単には、動きませんが、何度か試みているうちに竹皮にも緩みが生じて、スムーズに動かす事が、
出来ます。

(ソ)バレン使い方
用紙を版木に置いたら、バレンを軽く使って全体を滑らす様に大きく動かします。
この段階では、確り摺ると云うより、用紙を版木に定着させる為の方法です。写真で動きの方向を黒と赤の線で表示して
ありますので参考にして下さい。

(タ)バレン使い方U

用紙が、定着したらバレンを中央から右端へ、そこから左端へと動かします。
この時の注意点は、バレンにあまり力を入れずにジグザグ運動をする事です。焦って力を入れ過ぎてバレンをグルグルと、回転
させて摺刷しても、返って紙を傷めたり、汚れた摺りになってしまいます。
中くらいの力で竹皮の繊維の方向に逆らわないジグザグ運動の方が、微細できれいな摺りになります。
その後は、徐々にバレンの圧力を加えて用紙全体を均等に、満遍なく摺刷を行って行きます。

(チ)墨摺り版画
画像は、完成した墨摺り木版画です。一度摺ってみて気になる箇所を修正しました。
掲載した作品は、二度目の摺刷のものです。木版画は、一度削った処は、後戻りが出来ません。
あと後の修正も考慮して彫り過ぎないように配慮が、必要になって来ます。
摺刷した状態を確認しながら、必要が有れば修正箇所を少しずつ削って行きます。
少々面倒ですが、筆者は完成までに二度目、三度目と、板木への修正を加えながら摺刷を行っています。


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