デッサンの紹介

このページでは、木版画制作の原点となったデッサンやクロッキー、版画下絵を御紹介致します。
何気ないスケッチやデッサンから木版画の下絵に展開させていく方法、更に下絵から木版画以外の
絵画作品へと発展して行く過程なども筆者独自の観点からその技法論を展開したいと考えています。


下絵とデッサン

「裸婦クロッキー」  「木版画下絵」  「虹の子」下絵  「墨摺り版・下絵」 

1.「裸婦クロッキー」 2012.5.5 B3サイズ 制作時間10分

2.「木版画下絵」 250×190mm 画用紙に鉛筆

3.「虹の子」下絵 645×470mm ケント紙に鉛筆

4.「墨摺り版下絵」 400×257mm ケント紙に鉛筆


木版下絵と鉛筆画

 「猫と女学生」下絵 鉛筆画用下絵  「裸婦安座」下絵  鉛筆画「裸婦案座」 

A.「猫と女学生」下絵 250×190mm ケント紙に鉛筆

B.鉛筆画用下絵 272×240mm  画用紙に鉛筆
木版画で描いた女学生を此処では、セルロイド人形に変更して鉛筆画で再制作する。
鉛筆画用の下絵として、画用紙に人形の造形を中心に描いた。


C.「裸婦安座」下絵 260×190mm  ケント紙に鉛筆

D.鉛筆画「裸婦案座」 405×315mm ケント紙に鉛筆

木版下絵を基にして鉛筆画で描いた。鉛筆は、三菱ハイユニの4Hから6Bを使用。
木版表現の可能性は、限りないと考えているが、その根幹に確かな描写力が、求められる。
その為にも直接描法としての鉛筆画は、筆者にとって木版画表現と不離の関係にある。


下絵とデッサン

@「クロッキー」  A「木版下絵」  B「クロッキー」  C「木版下絵」  D「木版下絵」 

@「クロッキー」 2011.10.1 B3サイズ 制作時間5分

A「木版下絵」 260×190mm ケント紙に鉛筆

B「クロッキー」 2010.11.13 B3サイズ 10分

C「木版下絵」 260×190mm ケント紙に鉛筆

D「木版下絵」 260×190mm ケント紙に鉛筆

木版下絵と鉛筆画
1.「版画下絵」  2.「薔薇と乙女」  3.「版画下絵」  4.「卓上静物」 

1.「版画下絵」 260×170mm
下絵を基にして原寸を一回り拡大した鉛筆画を描く。
同寸であれば、下絵にトレーシングペーパーを使って転写する方法が、一般的。ここでは、拡大縮小
が、自由に出来る「グリッド方式」を使った。
グリッド式とは、昔から画家達の間で行われて来た、下絵等を自在に拡大縮小する為の転写法方。
技法は、簡単で下絵に等間隔で水平垂直線が交わるグリッド(格子状)を作る。
次に描写の為の支持体(紙・カンバス等)に任意に拡大縮小したグリッドを下絵と同じ方法で作る。
最後に下絵の格子状の線を目安にしながらB位の柔らかな鉛筆で転写を行う。

2.「薔薇と乙女」 262×188mm
木版画では追求が不可能な写実性、実在性を鉛筆で表現した。
また、原画の着衣の女性に対して鉛筆画では、裸体像を描く事で神話的なイメージを意図した。

3.「版画下絵」 260×170mm
鉛筆デッサンを基に木版画用に構成した。デッサンには無かった蝶々を配置して夢幻的な雰囲気を求めた。

4.「卓上静物」 283×186mm
版画下絵から鉛筆画を描く。ケント紙に三菱ハイ・ユニ鉛筆のBを中心にして制作。 


下絵とデッサン

A.「クロッキー」  B.「版画下絵」  C.「クロッキー」  D.「版画下絵」 

A.「クロッキー」 2012.9.1 制作時間10分
クロッキーでは、時折、大きな布地が、ポーズの際に用いられる事がある。
クロッキー本来の目的とは方向性が異なると考えるが、今回は布地とモデルの動きが、
能動的に関わっていて面白いと感じた。

B.「版画下絵」
苦労して完成させた下絵も、二度に亘って転写作業を行い、初めて彫りに入る。
この作業は、無意味で負担に感じるが、決して単調な作業では無く、微妙だが重要な
下絵修正の場でもある。


C.「クロッキー」 2012.8.14 制作時間5分
クロッキーは、3分位から長くても20分程度の限定された時間的な条件がある。
これは、描写時間が、単に短い事を意味するのでは無く限られた条件の中で描写を完成させる為の物の見方、
観察力を培う事と考える。

D.「版画下絵」
Cのクロッキーを基に下絵を描く。
人物画を描く場合、細密なデッサンや写真を参考に描くよりも、クロッキーの方が、拠り生き生きとした
描写が、出来る。

下絵とデッサン

@「クロッキー」  A「版画下絵」  B「クロッキー10分」  C「版画下絵」 

@「クロッキー2012.8.4」 制作時間5分
胡坐をかいて座ったポーズ。上半身に動きと変化、リズムがある。

A「版画下絵」
クロッキーを基にケント紙と鉛筆で納得のいくまでデッサンを追求する。クロッキーを其のまま引き写すのでは無く、
自身の感性で、新たに創造して行く気持ちが、大切と考えている。

B「クロッキー10分」
ページ内のクロッキー作品として既に紹介済だが、同一主題の版画下絵と比較し易いので並べて表示した。

C「版画下絵」

女性の髪をポニーテールにして風にそよぐ様な描写にした。
失われた首から肩に掛けてのラインが、現れた事で画面に生命感が、出た様に思う。


鉛筆画作品

1.「裸婦独座」  2.「薔薇三輪」 

1.「裸婦独座」
木版画下絵を基に鉛筆で作品化した。使用した鉛筆は、ユニのFとB〜4Bまで。

2.「薔薇三輪」
全体をBの鉛筆で描き進めた。一通り描写が完了したら少しずつ濃いめの鉛筆に変えて描写をすすめる。
明るい処は練り消しゴムやシャープペンシル型の消しゴムを使って調整した。
木炭を使った人体、石膏デッサンの技法と基本は、同じ方法。


版画下絵

A.「裸婦坐像」下絵  B.「後ろ影」下絵  C.「版画下絵」 

A.「裸婦坐像」下絵
顔の見えない裸婦像だが、逆に暗示的な要素が増して作品の魅力となった様に思う。

B.「後ろ影」下絵
墨一色摺りの木版画なのでグレーの中間色は無い。下絵では、黒と白の関係を納得が行くまで
徹底的に追及する事が、重要と考えている。

C.「版画下絵」
花弁だけスケッチを基にしたが、茎や葉の部分は、画面構成やリズム感を第一に考えて自由に描写した。
スケッチや写真を其のまま引き写しても、精気の無い死んだリアリズムに成る事が多い。


下絵とデッサン

 @「猫と星売り少女」 A「薔薇」  B「風船」 

@「猫と星売り少女」
多色版と墨摺り版で制作したものを鉛筆画として制作した。
表現手段を変えて制作する事で主題が、更に明確化されると思う。

A「薔薇」
デッサンを基に鉛筆で作品化した。デッサンでは、描き切れなかった葉の葉脈まで追求した。
B「風船」
風船が、若い男女や動物を引き連れて空に舞い上がる図を描いた。
全体のリズム感を失う事無く上昇する動きを意識。


下絵とデッサン

1. 「版画下絵」 2.「5分クロッキー」  3.「版画下絵」  4.「10分クロッキー」  5.「版画下絵」 

1.「版画下絵」
目覚めた直後で気だるそうに伸びをするポーズが、面白い。様式化されたポーズが多い中で、
動きや緊張感の有るポーズは、5分以内のクロッキーに限られて来る。

2.「5分クロッキー」
短時間で描いた作品だが、静的なポーズの中に起伏に富んだ動きが有る。また、上品な美しさも感じられ
作品化したいと思った。

3.「版画下絵」
2のクロッキーを基に下絵を制作した。
人物像を写実的に表現する事で、抽象的に表した周囲の空間が、より効果的になった。

4.「10分クロッキー」
椅子に座ったポーズは、椅子を暗示的な描写に留める。後で作品化する時に時間を掛けてゆっくり描写すれば良い。

5.「版画下絵」


クロッキー

A.「2011.4.2」  B.「2010.9.4」  C.「2010.8.14」  D.「2010.10.12」  E.「2010.12.11」 
F.「2010.12.11」  G.「2011.12」       


A.〜C.
三点とも5分クロッキー。
クロッキーブックで最大のもの<B3サイズ 513×358mm>を長年使用している。
これより小さなサイズでは、自由闊達な線描表現が出来ない。大きな画面で生き生きとした描写を
したいと考えている。

D.〜E.
二点とも10分クロッキー

F.〜G.
「F.」は5分、「G.」は20分で描写した。

下絵とデッサン

A.下絵「ひみつ」  B.鉛筆画「秘密」  C.下絵「祈り」  D.下絵「薔薇と星屑」 
E.デッサン  F.デッサン  G.デッサン 

A.下絵「ひみつ」
多色摺りで制作した木版画下絵。
意図した幻想性が希薄に思うので細密描写が可能な鉛筆画でもう一度この主題を追求。

B.鉛筆画「秘密」
木版下絵よりも幻想性を強調した画面を構成した。

C.下絵「祈り」
少女と少年の祈りの姿を一つの画面に纏めて画面を構成した。
空間表現を黒一色だけでなくグレーの調子でも表す事を意識した。

D.下絵「薔薇と星屑」
静物画の枠に捉われず、背景に都会の夜と星屑を配置して超現実的な空間を構成した。

E.「デッサン」
版画制作の為に薔薇をスケッチする。
花は、翌日には姿かたちが、変わってしまう。描写に取り掛ったら最後まで描き切る必要がある。

F.〜G.「デッサン」
薔薇の花弁が、時間の経過と共に少しずつ変化して行く様をスケッチした。
Gのスケッチは、D.「薔薇と星屑」の下絵として使った。

下絵とデッサン

@ 「淡彩デッサン」 A「木版下絵」  B「静物デッサン」  C「木版下絵」 

@「淡彩デッサン」
記録の為に淡彩を施した。彩色を行う際は、淡い感じで色付けすると良い。

A「木版画下絵」
デッサン@を基に版画下絵を描く。一番上の薔薇は、@の白い薔薇を鏡を使って反転させる事で得られた。


B「静物デッサン」
静物を題材にした版画の為のデッサン。静物画は、自由に題材を選び構成する楽しみがある。

C「木版下絵」
静物デッサンBを基に墨摺り版画の為の下絵を描く。
其々の題材を板目木版画として出来る限りの写実表現を目指した。



クロッキー

a.<2006.2.3> b.<2006.5.7>  c.<2006.3.5>  d.<2006.4.2>  e.<2006.2.3> 
f.<2006.4.1>  g.<2006.4.1>  h.<2005.11.13>  i.<2006.4.1>  j.<2006.4.1> 

「a.」〜「e.」迄は、ダンシング・クロッキー。
モデルは、瞬時も停止する事無く恣意的に身体を動かし続ける。
人体の動きの中心にあたる腰部を起点にして脚部、それから上半身へと、描写して行く。
手足の動きに目を奪われると描写が、出来ない。


下絵とデッサン

 1.「薔薇デッサン」 2.「版画下絵」  3.「クロッキー」  4.「版画下絵」 

1.「薔薇デッサン」
薔薇の小さなスケッチ。ポケットサイズのクロッキーブックに制作の為の資料として残しておいた。

2.「版画下絵」
1.のスケッチと少女像をモンタージュして墨摺り版画の下絵を描く。

3.「クロッキー」
5分ポーズなので未消化の部分もあるが、魅かれるものが有り版画として作品化したいと思った。

4.「版画下絵」
3のクロッキーから墨摺り版画の為の下絵を描く。写実性と若干のデフォルメを加えて表現。

クロッキー
A.<2006.2.5>  B.<2008.3.1>  C.<2006.2.5>  D.<2008.3.1>  E.<2006.2.5> 

A〜C迄は5分ポーズ、DとEは、10分ポーズで制作。
描写時間が、短い場合は、人体表面の柔らかな曲線的要素に惑わされやすい。
内部に潜む立体としての構造をしっかり把握する事が大切と、思う。


下絵とデッサン

@ 「墨摺り版下絵」 A 「墨摺り版下絵」  B 「鉛筆画」 

@墨摺り版画「誕生日」下絵
時の始まりを主題に、自由に創作した神話の一場面として画面を構成。
空間が、単なる「虚無」では無く、一つの生命体として描きたかった。

A墨摺り版画「誕生」下絵
同主題を 小品として着衣の人物像で制作した。

B鉛筆画「誕生の時」
ケント紙に鉛筆デッサンで同じテーマを追求した。
使用した鉛筆は、三菱ハイユニのB〜6Bを使用。消しゴムと練り消しゴムを「白」の描画材料として使う。


クロッキー

a. <2007.10.6> b. <2007.10.6>  c. <2006.2.5> d. <2007.7.7> e. <2007.10.6>
f. <2010>  g. <2007.10.6> h. <2007.7.7> i. <2007.10.6> j. <2007.10.6>


「f.」
クロッキーは、5分前後のポーズが、動きや表情が豊かで一番面白いと思う。

「g.」と「j.」
最長の20分ポーズ。一通り描写を済ませ、手早く右手親指を使って画面全体を擦りつけ「調子」に透明感を
与える。次に練り消しゴムでハイライト部分や面の動き、方向性を描写した。
    


下絵とデッサン

1.「クロッキー」  2.「墨摺り版下絵」  3.「多色版下絵」  4.「鉛筆画下絵」  5.「鉛筆画」 

1.「クロッキー」
3分か5分ポーズで描いた作品。<2000.5.28>
目覚めたばかりの気だるい雰囲気のポーズが気に入っていた。

2.「墨摺り版下絵」
クロッキーを基に2003年頃に制作した墨摺り版画の下絵。

3.「多色版下絵」
2010年に制作した多色木版画(640×470mm)の下絵。

4.「鉛筆画下絵」
木版画で表現した主題を更に追求し、深化させたいと考えたので鉛筆画作品としての制作を決めた。

5.「鉛筆画」
目覚めの美しいポーズだけでなく《人間性への目覚め》の意味も二重に重ねて
神話的世界を構築しようとした。


クロッキー

A.<2010.2.6>  B.<2010.1.9>  C.<2009.12.5>  D.<2009.12.5>  E.<2009.12.5> 
F.<2009.12.5>  G.<2010.3.6>  H.<2010.3.6>  I.<2010.3.6>  J.<2009.12.5> 

「A.」 <>内の数字はクロッキー制作年月日

対象物(人体)を球体、立方体、円錐、円筒体等の立体の集合体であると云う認識を強く持つこと。


「B.」
一つの立方体(人体)が、眼前に在るのは、其処に三次元空間が、存在している事である。
デッサンを描く時は、この三次元空間を強く意識する事が重要。

「C.」〜「F.」
人物は、輪郭線だけで表現できる平面的な存在では無い。モデル(人物)が、三次元空間に存在する
立方体の集積なら、立体としての面の働きや方向性を表す必要性が、生じる。
「C」から「F」までの人物陰影部分の微妙なトーンが、単なる「調子」だけでなく、同時に面の持っている
動き、方向性を表現している。


「G」と「I」
人体が、圧縮された状態に見える位置でクロッキーを描くこともある。
このポーズで大切な事は、距離感の表現にある。「G」と「I」の位置からはモデルの頭部から、つま先まで圧縮
されて見えるが、実際は1メートル数十センチの奥行きがある。
描き手の位置に一番近い部位から最も離れた部位までの距離感を感じ取り、それを表現するだけの観察力と
描写力が、必要になってくる。

「J」
未完成のデッサンやスケッチでも、そこから素晴らしい作品が、生まれる可能性は、十分有る。



下絵とデッサン他

@「クロッキー」  A「アクリル画」  B「墨摺り版下絵」 

@ <1997.2.16>
椅子に座ったモデルを5分で描いた。正面から見た構図で安定したピラミッド型の三角形を成している。

A <1998.2>
クロッキーを基にアクリル絵の具で作品化した。三角型の構成を生かしながら、人物描写は、自由に
デフォルメした。絵の具(リキテックス)の性質を考えて豊かな色感を表現しようと考えた。

B <2011.4>
背景の空間は、幾何学的、抽象的な表現で自由に造形した。




クロッキー

 a. <2010> b. <2010.3.6>  c. <2010.2.6>  d. <2010.3.6> e. <2010.4.3> 

「a.」
10分で描いたクロッキー。輪郭線ばかり追いかけていては、生き生きとした描写にはならない。
細かな処でも単純な立方体の集積と見るべき。

c.」
この作品では、モデルの左足に体重が、掛っているが、突きあげて来る力に対しての抵抗が、殆ど無く、
その為に自然に左肩も上に挙がってしまい不安定で揺らいでいる様なポーズに成っている。



下絵とデッサン

1.  2.  3.  4.  5. 

「1.」 <2009.4.21>
木版画の為のデッサン。版画下絵にする時は、対象を省略化、抽象化する。その為、デッサンの場合は逆に
写実性が、要求される。画用紙にユニ鉛筆Bで描く。

「2.」 <2009.1.27>
薔薇のデッサン。このデッサンを基に木版画下絵を作画した。

「3.」 <2009.2.8>
薔薇の花弁が気に入ったので、その形だけを描いた。後で、絵画や版画として作画する時は、茎や葉の形を
自身の感性で創造して行く。

「4.」 <2009>
多色摺り木版画「薔薇と貝殻」の下絵。「1.」のデッサンを基に制作。背後の枯れた薔薇をカットして
瓶に活けた花も変えた。

「5.」 <2009>
墨摺り木版画「二輪の薔薇」の下絵。薔薇の花は、「2.」と「3.」のデッサンを組み合わせた。
草花や瓶をデッサンをする事で対象の本質を掴んだなら、作画では、自由にのびのびと表現して行く。



クロッキー

A. <2008.6.7>  B. <2008.6.7>  C. <2008.6.7>  D. <2007.9.1>  E. <2007.6.1> 
F. <2007.9.1>  G. <2008.6.7>  H. <2010.10.2>  I. <2010.2.6>  J. <2010.4.3> 

「A.」
モデルを背面から描く。画面左側の脚部全体に「線」による調子が、施されている。
「線」は、暗部や陰影を表すと同時に「面」の持っている「方向性」も表現している。

「B.」
モデルが、窮屈なポーズで椅子に座っている。膝を描き手に突きだす様な形だ。
ここでは、膝が、描き手に一番近く迫っており画面左足の膝より、その距離の分だけ大きく描写されている。
人が、物を見る時「恒常性」と云う生理的な作用があって視覚の合理性を抑制してしまう。
同一人物が、5メートルと10メートルの位置に立っていても、それ程大きさの変化を感じ取れないのだ。
画家が、デッサンの修練をするのは、「恒常性」を否定してカメラレンズの様な合理性を持った
観察眼を養う事と云える。


「E.」
対象の人体を立方体の集積として見ている。表面に出ている柔らかな曲線ばかりに囚われる事無く、
あくまでも「立体」として対象を凝視する姿勢が大切。


「F.」
20分の坐像ポーズ。
デッサンの為の公民会場では、天井からの複数の照明を利用する為に、光が拡散してしまい
対象物<モデル等>の明度関係が、殆んど見られないフラットな光源で描写を強いられる。




下絵とデッサン

@ 「少年の祈り」下絵 A「少女の祈り」下絵  B「少女」多色版下絵  C「少年の祈り」鉛筆画  D「少女の祈り」鉛筆画 


@ <2008>
木版画「少年の祈り」下絵。少年が、祈る姿の無垢な美しさを描こうとした。

A <2008>
「少年の祈り」と同じ主題で描いたもの。両作品を向い合せに配置して一対の
作とした。

B <2008>
「少女の祈り」多色版の下絵。

C <2008>
木版画「少年の祈り」を基に鉛筆画として再制作した。木版表現では、不向きと思われる情念的世界を
表す為に鉛筆を用いて徹底的な細密描写を試みた。


D <2008>
同名主題の木版作品を鉛筆画として制作した。、鉛筆画の場合は、明度関係や質感等の細密表現に必要なあらゆる
要素を織り込むので最後まで人物の表情がどうなって行くのか判らない。其処が、細密描写の難しい処でもあり、また、
楽しさでもある。



クロッキー

a.<2007.10.6>  b.<2008.8.2>  c.<2010.9.4>  d.<2008.8.2>  e.<2010.5.1> 
f.<2008.8.2>  g.<2010.5.1>  h.<2010.9.4>  i.<2010.5.1>  j.<2010.9.4> 

「a.」
クロッキーを描く時何処から始めるかと云う問題が、ある。筆者は、10分以上のポーズなら眉毛と目から
描き始める。先ず任意の場所に眉毛から描き始め次に目を描き鼻、唇そして頭部全体へ描写を進める。
目鼻を描けば頭部の大きさが、決まる。
頭部の大きさと位置関係が画面内で決定すれば上半身の大きさと腕や乳房、胸郭や骨盤の位置が、
自然に表われて来る。更に上半身の形や各部の位置関係が決まれば下半身の大きさと両足の位置関係も
必然的に表出する。
「a.」でもモデルの眉毛と目を描いた時には、画面内での空間の取り方、描き手の眼の位置(水平線)、
立体としての基本構造、重心の在り方と各部の位置関係を認識している。
対象を最初に見た時に既にデッサンの骨格が、描き手の感性の中で完成されている事が、大切。
後は、短い制限時間内で最重要の描写だけを進める。


「b.」
短時間で描くクロッキーの有効な勉強法として、人体の構造や各部位の比例関係を理解して置くと良い。
頭部には、目鼻、口唇の位置関係が、平均的な比例関係の中に存在する。球体から成り立つ頭部は、
三等分する事で額、眉、鼻と唇が決定され両眼は、頭部の中心に位置される。
そして、頭部二つ分で乳房の乳頭、三つ分で骨盤の上部(臍の位置)にあたり、四つ分で上半身の大きさが、
決まる。この様な比例関係は、理想的な平均値で絶対視出来る訳ではないが、クロッキーを含む人物画
を勉強するには、大いに有効と考えている。

「c.」
人体を単純な立方形の集合体として捉えるならば面の持っている性質も理解する必要がある。但し、
面の動きや働き、方向性は決して画一的では無い。この絵では、腹部と脚部の面の微妙な動きや方向性
の変化を捉えようと描いてみた。


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